義務感の詳しい解説
ぎむかん
意味
義務感は、個人が社会的・道徳的な責任を自覚し、それに従って行動しようとする心理的状態を指す。人は他者や集団から期待される役割や規範を認識し、内面でそれを義務として受け入れることで、協調や秩序を維持する動機付けとなる。
主な特徴と構成
義務感は、社会的規範や個人の価値観、経験から形成される。内発的に生まれる場合もあれば、外部からのプレッシャーや報酬によって強化される。感情的な責任感と理性的な判断が絡み合い、行動の継続性や一貫性を生む。」「義務感は、個人の自己概念と社会的期待のバランスを取ることで、ストレスや罪悪感を調整し、心理的安定を支える。」「義務感は、組織やコミュニティ内での協力やリーダーシップの発揮に不可欠であり、社会的信頼の基盤となる。
具体的な事例と影響
義務感は、医療現場での看護師が患者のケアを継続する動機となり、患者の回復率向上に寄与する。教育分野では、教師が授業計画を守り、学習環境を整えることで生徒の学習意欲を高める。企業では、従業員が会社の倫理規定を遵守することで、ブランドイメージや顧客信頼を維持する。社会運動では、市民が環境保護や人権擁護に参加し、公共政策の改善を促す。これらの事例は、義務感が個人行動を統合し、社会全体の福祉向上に寄与することを示している。
概要と定義
「義務感」とは、私たちが社会の一員として、あるいは特定の役割を担う者として、果たすべきだと自覚している責任や、それに伴って生じる心理的な状態を指す言葉です。これは、単に「~したい」という自発的な欲求とは異なり、どちらかというと「~しなければならない」という感覚、つまり、外部からの期待や、社会的なルール、あるいは自分自身が大切だと考える道徳的な基準に基づいて、行動を起こそうとする内面的な駆り立てを意味します。心理学においては、この義務感が、私たちの行動をどのように方向づけ、社会的な調和や個人の成長にどのように貢献するのかが探求されています。
義務感は、大きく分けて二つの側面から捉えることができます。一つは、社会や他者からの期待、例えば「親は子供を守るべきだ」「公務員は市民のために尽くすべきだ」といった、外部から与えられる規範や役割意識です。もう一つは、個人が内面的に「これが正しいことだ」「こうあるべきだ」と強く信じる価値観や道徳観に基づいたものです。これらの外部からの圧力や、内面化された規範が、私たちの行動の原動力となるのです。例えば、締め切りを守って仕事を完成させることは、上司からの指示という外部からの圧力であると同時に、「プロとして責任を果たすべきだ」という内面的な規範意識によっても支えられています。
この章では、義務感という概念の基本的な意味合いを明確にし、それが単なる「やりたい」という気持ちからどのように区別されるのかを解説します。自発的な意欲が、個人の内なる喜びや興味に根差しているのに対し、義務感は、しばしば「~しなければならない」という、ある種の制約や責任感を伴います。しかし、この制約こそが、個人では達成が難しい目標の達成や、社会全体の秩序維持に不可欠な役割を果たしているのです。義務感は、私たちの行動を安定させ、予測可能にし、結果として他者からの信頼を得るための基盤ともなり得るのです。
歴史と背景
「義務感」という言葉は、私たちの日常生活において、責任感ややるべきこと、といった意味合いで頻繁に使われます。しかし、この心理的な状態がどのように理解され、研究されてきたのか、その歴史的背景に目を向けることは、義務感の本質をより深く理解する上で非常に重要です。
義務感という概念は、古くは哲学の世界で、特にイマヌエル・カントのような思想家によって、道徳的行動の根幹として論じられてきました。カントは、義務感に基づいた行為こそが真に道徳的であると考え、人間の理性と普遍的な道徳法則との結びつきを強調しました。こうした哲学的な議論は、後の心理学における義務感の研究に大きな影響を与えています。
心理学の分野では、義務感は主に道徳心理学や発達心理学といった領域で研究されてきました。初期の研究では、子供たちがどのようにして道徳的な規範やルールを内面化し、それを「守らなければならないもの」として認識していくのか、という点に焦点が当てられました。例えば、ジャン・ピアジェのような発達心理学者は、子供の道徳性の発達段階を研究し、他者の期待や社会的なルールを理解していく過程で、義務感も形成されていくと考えました。
さらに、ローレンス・コールバーグは、ピアジェの研究を発展させ、道徳的ジレンマに対する判断を通して、人間の道徳性の発達段階をより詳細に分類しました。彼の理論では、個人の道徳的判断が、罰や報酬を避けるためといった外的な要因から、社会的な契約や普遍的な倫理原則へと移行していく過程で、より高度な義務感、すなわち内面化された道徳的原則に基づく行動が重要視されます。これは、単に「~すべき」という表面的な感覚だけでなく、なぜそうすべきなのかという理由を理解し、自己の価値観として受け入れている状態を示唆しています。
また、社会心理学の観点からは、集団や社会における規範の共有、そしてそれが個人の行動にどう影響を与えるかという文脈で義務感が捉えられてきました。人々が所属する集団の期待に応えようとする心理や、社会的な役割を果たすことへの責任感なども、義務感の一側面として研究されています。これらの研究は、義務感が単なる個人的な感情ではなく、社会的な相互作用の中で育まれ、維持されるものであることを示しています。
このように、義務感は哲学的な探求から始まり、発達心理学や社会心理学といった様々な分野で、その形成過程や機能が多角的に研究されてきました。これらの歴史的な研究の積み重ねが、現代における義務感への理解の基盤を築いているのです。
主要な仕組み・原理
義務感は、私たちが社会の一員として、あるいは道徳的な存在として、果たすべき責任を自覚し、それに沿って行動しようとする心の働きです。これは、単に「~しなければならない」という表面的な感覚にとどまらず、私たちの内面に深く根ざした心理的な状態と言えます。
この章では、義務感がどのように私たちの心の中で生まれ、そしてどのようにして私たちの行動を支え続けているのか、その主要な仕組みや原理について詳しく見ていきましょう。
超自我の役割
義務感の形成において、精神分析学でいう「超自我」は重要な役割を果たします。超自我は、親や社会から教え込まれた道徳的な規範や価値観が内面化されたもので、「~すべき」「~してはならない」といった内なる声として機能します。例えば、幼い頃に「嘘をついてはいけない」と繰り返し教えられた経験は、超自我の一部となり、私たちが大人になっても正直であろうとする義務感の源泉となります。この超自我が強く働くことで、私たちは社会的なルールや道徳的な基準に沿った行動をとろうとします。
認知の不一致と義務感
次に、認知の不一致(アンチノミー)という心理的なプロセスも義務感に関わってきます。これは、自分の行動や考えが、自分が大切にしている価値観や規範と矛盾している状態です。例えば、「自分は正直者であるべきだ」と考えている人が、つい嘘をついてしまったとします。この時、自分の行動と「正直者であるべき」という価値観との間に不一致が生じ、不快感や罪悪感を感じます。この不快感を解消するために、私たちは本来の価値観に沿った行動、つまり正直であろうとする義務感を再認識し、今後の行動を修正しようとします。
社会的期待への応答プロセス
また、私たちは社会的な存在として、他者からの期待に応えようとする傾向があります。家族、友人、同僚、そして社会全体からの期待を認識し、それに応えることが「義務」だと感じるのです。例えば、親は子供の健やかな成長を願う親としての義務を感じ、教師は生徒の教育に責任を持つという義務を感じます。これらの社会的期待は、私たちの行動を方向づける強力な力となり、義務感として内面化されていきます。私たちが期待されている役割を果たすことで、社会的なつながりを維持し、安心感を得ることができるのです。
このように、義務感は、内面的な道徳観(超自我)、自己の価値観との調和(認知の不一致の解消)、そして他者からの期待への応答という、複数の心理的なメカニズムが複雑に絡み合いながら形成され、維持されています。これらの仕組みを通じて、私たちは社会の中で円滑に、そして責任感を持って生きていくことができるのです。
構成要素・基本構造
義務感は、単一の感情や思考ではなく、複数の心理的要素が複雑に絡み合って形成されるものです。この章では、義務感を理解するための主要な構成要素とその構造に焦点を当てます。まず、「責任意識」が挙げられます。これは、自分が果たすべき役割や、他者、あるいは社会全体に対して負っている責任を自覚する能力です。この意識は、個人の経験や教育、所属する集団の価値観などによって培われます。例えば、親が子に対する責任を自覚するのは、生物学的な繋がりだけでなく、社会的な期待や道徳観念に基づいています。
次に、「規範の受容」が重要な要素となります。これは、社会や集団が共有するルールや期待、道徳的な基準を内面化し、それに従うべきだと考えるプロセスです。例えば、交通ルールを守ることは、単に罰則を恐れるからだけでなく、社会の一員としての規範を受け入れているからです。この規範の受容は、円滑な人間関係や社会秩序の維持に不可欠な基盤となります。
さらに、「罪悪感の回避」も義務感の形成に大きく関わっています。人は、自分が果たすべき義務を果たせなかったり、社会的な規範を破ったりした場合に感じる不快な感情、すなわち罪悪感を避けたいという心理が働きます。この罪悪感を回避したいという動機が、義務を遂行する強力な推進力となることがあります。例えば、約束を守れなかった場合の相手への申し訳なさや、自身の良心の呵責を避けるために、約束を守ろうと努力するのです。
これらの要素は、それぞれ独立して存在するのではなく、相互に影響し合いながら義務感という構造を形成します。責任意識が高まれば、それに伴って規範の受容も進みやすくなり、規範に従うことで罪悪感を回避しようとします。逆に、罪悪感を感じやすい人は、より強く規範に従おうとする傾向が見られるかもしれません。このように、義務感は、個人の内面でこれらの要素がダイナミックに作用し、結果として特定の行動様式や責任感として現れるのです。この構造を理解することは、なぜ人が特定の状況で義務を感じ、それに基づいて行動するのかを深く洞察する上で役立ちます。
主要な種類・分類
義務感は、その源泉や性質によっていくつかの種類に分類することができます。ここでは、主に「対人関係的な義務感」と「内発的な義務感」という二つの側面から、その違いを解説していきます。
まず、「対人関係的な義務感」とは、他者からの期待や要求に応えようとする心理から生まれる義務感を指します。例えば、友人や家族からの頼み事を断れない、上司からの指示には必ず従わなければならない、といった感覚がこれに当たります。これは、他者との良好な関係を維持したい、相手を失望させたくない、といった感情や、社会的な立場(親、子、部下など)からくる役割遂行への意識に基づいています。こうした義務感は、人間関係の円滑化や社会的な協調を促す一方で、過度になると自己犠牲につながったり、他者の意向に振り回されてしまったりする可能性もはらんでいます。
次に、「内発的な義務感」とは、個人の内面にある価値観や道徳観、あるいは自己が置かれている社会的役割に対する深い自覚から生まれる義務感を指します。例えば、「困っている人を助けるべきだ」「不正は許すべきではない」「自分の仕事は責任を持って全うすべきだ」といった、外部からの直接的な要求がなくても、自分自身の良心や信念に基づいて生じるものです。これは、個人の倫理観や、社会の一員としての責任を自覚することによって動機づけられます。内発的な義務感は、個人の主体的な行動を促し、自己肯定感や充実感につながることが多いですが、時には周囲の理解を得にくい、あるいは孤立を招く可能性もあります。
これらの二つの義務感は、しばしば相互に影響し合います。例えば、職場で与えられた仕事に対して、上司からの期待(対人関係的な義務感)に応えようとすることはもちろんですが、同時に「プロフェッショナルとして質の高い仕事をするべきだ」(内発的な義務感)という意識も働くでしょう。このように、義務感は単一のものではなく、個人の置かれた状況や内面的な要因が複雑に絡み合って形成されるものなのです。
具体的な事例・応用
義務感は、私たちの日常生活、職場、教育現場など、様々な場面で具体的に現れます。この章では、義務感が私たちの行動にどのように影響を与えるのかを、具体的な事例を通して見ていきましょう。
- 日常生活における義務感: 例えば、家族の一員としての役割を果たすこと。親が子供の世話をする、子供が親の介護をする、といった行為は、単なる愛情だけでなく、家族という共同体における責任、すなわち義務感に基づいている側面があります。また、地域社会の一員として、ゴミの分別をきちんと行う、近隣住民との約束を守るといった行動も、社会的な秩序を維持するための義務感から生まれます。これらの行動は、直接的な見返りがなくても、個人が社会の一員として、あるいは特定の集団の一員として、果たすべき責任を自覚しているからこそ継続されるのです。
- 職場における義務感: 職場では、従業員は自身の職務を遂行する責任を負っています。これは、雇用契約に基づいた法的・道徳的な義務であると同時に、同僚や顧客との信頼関係を維持するための重要な要素です。例えば、納期を守るために残業する、与えられた仕事を責任を持って完了させる、といった行動は、個人の能力や意欲だけでなく、職務に対する義務感によって支えられています。また、企業の倫理規定やコンプライアンスを遵守することも、組織の一員としての義務感の表れと言えるでしょう。これにより、組織全体の信頼性やブランドイメージが維持され、持続的な活動が可能となります。
- 教育現場における義務感: 教育現場では、教師が生徒に対して負う義務感が、学習環境の質に大きく関わってきます。教師は、生徒の成長を促すために、授業の準備を怠らず、個々の生徒の学習状況に配慮し、公平な評価を行うといった責任を負っています。これは、単に給与を得るためというだけでなく、子供たちの未来を育むという道徳的な義務感に基づいています。生徒側も、学習に対する義務感を持つことで、授業に真剣に取り組み、課題をこなすといった行動に繋がります。
このように、義務感は、私たちが社会生活を送る上で、他者との関わりや集団の維持に不可欠な役割を果たしています。それは、個人の内面的な動機付けとして、また、社会全体の調和と発展を支える基盤として、様々な形で私たちの行動を導いているのです。
メリットと課題
義務感は、私たちの社会生活において、なくてはならない重要な役割を果たしています。この章では、義務感がもたらす肯定的な側面、すなわちメリットと、それが過度になった場合に生じうる課題について掘り下げていきます。
義務感のメリット:社会秩序と個人の成長を支える力
義務感は、個人が社会の一員として果たすべき役割や責任を自覚させ、それに沿った行動を促す原動力となります。例えば、医療従事者が患者さんのケアを続けるのは、単なる仕事だからというだけでなく、「患者さんの回復に貢献する」という強い義務感に基づいています。これにより、患者さんは安心して治療を受けられ、医療システム全体の信頼性が保たれます。教育現場においても、教師が授業計画を忠実に実行し、生徒一人ひとりに向き合うのは、次世代を育成するという義務感があるからです。これは生徒たちの学習意欲を高め、個々の成長を促すことに繋がります。
企業活動においても、従業員が会社の倫理規定やコンプライアンスを遵守することは、組織の信用を守り、顧客からの信頼を得る上で不可欠です。また、社会運動やボランティア活動への参加も、より良い社会を築きたいという義務感から生まれる行動であり、社会全体の福祉向上に貢献しています。このように、義務感は、個人の行動を社会的な目標と結びつけ、協力や秩序を維持するための基盤となっているのです。
義務感の課題:過度な負担と燃え尽き症候群のリスク
一方で、義務感が過剰になると、個人に大きな心理的負担をもたらす可能性があります。常に「~しなければならない」という考えに囚われると、息苦しさを感じ、精神的な疲労が蓄積しやすくなります。特に、自分の能力を超えた責任を負わされていると感じたり、他者からの期待に応えられなかった場合に強い罪悪感を抱いたりすることがあります。こうした状況が続くと、燃え尽き症候群(バーンアウト)に陥るリスクが高まります。
燃え尽き症候群は、慢性的なストレスによって、感情的、身体的、精神的に消耗しきってしまう状態です。仕事への意欲を失い、無気力になったり、人間関係に疲れを感じたりすることがあります。また、過度な義務感は、自分自身の欲求や感情を抑圧することにも繋がりかねません。自分のための時間や休息を犠牲にし、常に他者や社会のために尽くすことを優先してしまうと、自己肯定感が低下し、精神的な健康を損なう恐れもあります。
バランスの重要性:健全な義務感との付き合い方
義務感は、社会生活を送る上で必要不可欠な感情ですが、その度合いを適切に保つことが重要です。社会秩序や個人の成長を促す健全な義務感と、過剰な負担や燃え尽きに繋がる義務感との間には、明確な境界線があります。自分自身の限界を理解し、時には「ノー」と言う勇気を持つこと、そして、他者からの期待に応えられない自分を過度に責めないことが大切です。休息やリフレッシュの時間を確保し、自分自身の心身の健康を第一に考えることで、義務感を健全な形で維持し、より豊かで充実した生活を送ることができるでしょう。
関連概念・周辺知識
義務感は、個人が社会や道徳的な責任を自覚し、それに従おうとする心理状態です。これは、他者や集団からの期待、あるいは社会的な規範やルールを認識し、それを自分自身の内なる義務として受け入れることから生じます。この内面化された義務感が、人々が協力し、社会の秩序を保つための重要な動機付けとなります。
義務感と関連概念との関係性
義務感は、単独で存在するのではなく、他の心理的・社会的な概念と深く結びついています。この章では、義務感と密接に関連する「責任感」「良心」「羞恥心」「自己効力感」といった概念との違いと接点を整理し、それらがどのように義務感と相互作用するかを解説します。
責任感
責任感は、ある行動の結果に対して、自分が引き受けるべきであるという意識です。義務感は「~すべきだ」という規範への意識ですが、責任感はその規範に基づく行動の結果に対する当事者意識と言えます。例えば、「約束を守るべきだ」という義務感から、約束を守る行動をとった結果、相手が喜んだことに対して「自分の責任で相手を喜ばせられた」と感じるのが責任感です。義務感は行動の動機付けに、責任感はその行動の結果への関与に焦点を当てています。
良心
良心は、何が正しく、何が間違っているかについての内的な道徳的判断基準です。良心は、しばしば「~すべきでない」という禁止信号として機能し、義務感の源泉となることがあります。例えば、不正を目にした際に「不正をしてはいけない」という良心の声が、不正をせずに正しい行動をとるべきだという義務感を生み出します。良心が義務感の「なぜそうすべきか」という道徳的な根拠を提供すると言えるでしょう。
羞恥心
羞恥心は、社会的な規範から逸脱した際に感じる、不快で苦痛な感情です。他者からの否定的な評価を恐れることから生じ、しばしば義務感の維持に影響を与えます。例えば、約束を破ることで生じる羞恥心を避けるために、義務感から約束を守ろうとする場合があります。羞恥心は、義務感に反する行動を抑制する外的な(しかし内面化された)制約として機能することがあります。
自己効力感
自己効力感は、自分が特定の状況で、特定の行動をうまく遂行できると信じる度合いです。義務感は「~すべきだ」という規範意識ですが、自己効力感は「自分にはそれができる」という自信です。高い自己効力感は、義務感に基づく行動をより積極的に、かつ効果的に遂行する助けとなります。例えば、困難な課題に対して「これは自分の義務だ」と感じる義務感があっても、「自分にはこの課題を達成する能力がある」という自己効力感がなければ、行動に移すことは難しいでしょう。義務感と自己効力感は、行動の意思決定と遂行において相互に補完し合う関係にあります。
これらの概念は、それぞれ義務感とは異なる側面を持っていますが、相互に影響し合いながら、私たちの行動や意思決定を形作っています。義務感は、これらの感情や認知プロセスと複雑に絡み合いながら、個人が社会の中で調和を保ち、自己の道徳観に従って行動するための基盤となっているのです。
最新動向とトレンド
現代社会において、「義務感」という言葉が持つ意味合いは、時代背景や個人の価値観の変化とともに、より多様な様相を呈しています。特に、ワークライフバランスの重視やメンタルヘルスへの関心の高まりは、従来の画一的な義務感の捉え方に一石を投じています。かつては、組織への忠誠心や与えられた役割を無条件に遂行することが美徳とされる傾向がありましたが、近年では、個人の幸福や自己実現といった側面との調和が重視されるようになっています。
最新の研究や社会的議論では、義務感が内発的な動機に基づいているか、それとも外発的な圧力によって生じているかが、その質を大きく左右すると指摘されています。例えば、自身の価値観や目標と合致した「意味のある」活動に対する義務感は、個人のエンゲージメントを高め、持続的な貢献につながりやすいと考えられています。一方で、過度なプレッシャーや不当な要求から生じる義務感は、燃え尽き症候群や精神的な負担の原因となり得ることが示唆されています。そのため、現代の組織やコミュニティにおいては、単に義務を果たすことを求めるだけでなく、個人が自律的に、そして納得感を持って貢献できるような環境づくりが求められています。
さらに、デジタル化が進展した現代社会では、新たな課題も浮上しています。SNSなどを通じて、他者の活動や社会的な期待が可視化されやすくなったことで、比較による義務感の増幅や、オンライン上での「見られる」ことへのプレッシャーが生じることがあります。また、リモートワークの普及は、物理的な距離による人間関係の変化とともに、仕事とプライベートの境界線を曖昧にし、新たな形の義務感や責任の所在についての議論を呼んでいます。これらの状況を踏まえ、義務感を健全に育み、活用していくためには、個人の内面的な充足感と、社会的な責任とのバランスを、より繊細かつ柔軟に捉え直す視点が不可欠となっています。
将来展望とまとめ
義務感は、私たちの日常生活において、他者との関わりや社会的な役割を果たす上で重要な役割を果たします。しかし、この義務感が過度に負担となると、個人の精神的な健康を損なう可能性も否定できません。本章では、義務感を健全に活用し、個人の幸福と社会への貢献を両立させるための具体的な方法を探求します。
義務感のバランス:ウェルビーイングと社会貢献の両立
義務感は、社会の一員として他者への配慮や責任を果たすための原動力となります。例えば、医療従事者が患者への献身的なケアを続けるのは、その職務に対する強い義務感があるからです。また、教師が生徒の成長のために努力を惜しまない姿勢も、教育者としての義務感に基づいています。企業における従業員の倫理規定遵守や、社会運動への市民の参加も、それぞれの立場や信念に基づく義務感から生じる行動と言えるでしょう。これらの例は、義務感が個人レベルの行動を促すだけでなく、社会全体の秩序維持や発展に寄与する側面を持っていることを示しています。
しかし、義務感が過剰になると、個人の自由な意思決定を妨げ、精神的な疲弊を招くことがあります。常に「~しなければならない」という考えにとらわれると、息苦しさを感じ、本来の目的を見失ってしまうことも少なくありません。このような状況を避けるためには、義務感と自己肯定感のバランスを取ることが重要です。自分の能力や状況を客観的に把握し、無理のない範囲で責任を果たすことを心がけましょう。例えば、完璧主義を手放し、「できる範囲で最善を尽くす」という考え方を取り入れることで、精神的な負担を軽減できます。
義務感からの解放:実践的なアプローチ
義務感によるストレスから解放されるためには、いくつかの実践的なアプローチが有効です。まず、自分の感情に正直になることが大切です。義務感を感じている状況で、どのような感情(不安、焦り、罪悪感など)を抱いているのかを認識し、言語化してみましょう。次に、その義務感が本当に自分自身にとって必要なものなのか、あるいは他者からの期待や社会的な圧力によって生じているものなのかを問い直すことが重要です。もし後者であれば、その期待や圧力から距離を置く方法を検討します。
また、他者との適切な境界線を引くことも、義務感の負担を軽減する上で役立ちます。「ノー」と言う勇気を持つこと、あるいは自分の時間やエネルギーを大切にすることを意識しましょう。さらに、義務感を感じる状況を、自己成長の機会や他者との協力関係を深める機会と捉え直すことも有効です。例えば、困難な課題に直面した際に、それを乗り越えることで得られる達成感や、周囲の人々との連携を通じて生まれる連帯感を意識することで、義務感がポジティブなエネルギーへと転換されることがあります。
結論:義務感との賢い付き合い方
義務感は、社会生活を送る上で不可欠な要素であり、私たちの行動を導き、社会の調和を保つための重要な動機付けとなります。しかし、その一方で、過度な義務感は個人の精神的な健康を脅かす可能性も孕んでいます。本章で述べたように、義務感と自己肯定感のバランスを取り、自分の感情に正直になり、他者との適切な境界線を引くといった実践的なアプローチを通じて、義務感を健全に活用していくことが可能です。
最終的に、義務感との賢い付き合い方とは、それを単なる「~しなければならない」という制約として捉えるのではなく、自己実現や他者との良好な関係構築のための「~したい」という能動的な意思へと昇華させることです。個人のウェルビーイングを大切にしながら、社会への貢献を実感できるような、より豊かで充実した人生を送るための一助となれば幸いです。
例文
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彼は純粋な興味ではなく、強い義務感からボランティア活動に参加していた。
自発的な欲求ではなく、責任や役割を果たすための動機として「義務感」が働く様子を表現しています。
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親としての義務感から、子供たちの教育に細心の注意を払っている。
社会的な役割(親)に伴う責任を自覚し、行動に反映させる文脈での用法です。
出典
- 大辞林 第三版 (goo辞書/小学館)
- 心理学用語集 - 義務感 (日本心理学会)